バイオガス発電を考える 3/5
from ミュンスター
650年以上の歴史を持つアインベックビールを飲みながら、ドイツ人と語り合う。
彼は日本にトウモロコシの種を売りたいのだそうだ。
僕は言う。
日本は狭い。
彼は言う。
総面積はドイツと変わらない。
確かに総面積は、似たようなものかも知れない。
でも山地に覆われた長細い国、日本と平野続きの国、ドイツでは大きく違う。
僕は言った。
牛の飼料(エサ)は50%が輸入に頼っている。
豚のそれは90%以上だ。
単純に考えれば、牛で50%、豚で90%以上の糞尿が余っている。
要は糞尿を撒く畑が足りないのだ。
そんでもって日本には国境がない。
スイスがライン川に糞尿をたれ流せば、ドイツは許さないだろう。
っていうか国際紛争になる。
日本はどうだろう?
川や海をきれいに保つことに対しての他の国との感覚の違いは?
どうも我々は国境がある国と違い環境を共有しているという感覚がないせいか、環境保全の意識が薄いのだ。
国境がないというのは日本人の意識形成にあたり、その影を色濃く落としている。
そんな話をしながら僕は最後に少しきつい口調で彼に言った。
「日本で口からいれるものを売りたかったら、尻から出るもののことまで考えなければならない。日本はその土地に還元し、循環できる以上の食糧を輸入しているのだ。」と・・・
どこまでも続くトウモロコシ畑がつくる地平線を見ながら、ぼんやりと昔について考える。
日本もかつては循環型社会を築いていたじゃないか・・・
でも元には戻れない。
道は一本切り。
ドイツでは1990年頃からバイオガスの導入が始まった。
初期は食品残さや家畜糞尿が主流だったという。
エネルギー作物なんて、まだ誰も考えもしなかった。
転換は2003年だったという。
売電価格が1kwあたり25~30円に引き上げられた。
ドイツでの牛乳の買い取り価格は30~40円。
日本のそれの半分を下回る。
しかも市場変動が大きい。
不安定な酪農を営むよりも、牛の飼料を作る技術を使ってエネルギー作物を育てて電気を売った方がよい。
酪農家の中には牛を買うのをやめ、エネルギー作物にシフトするものも現れ始めた。
そして翌年、食品残さを使った飼料がEUで禁止になった。
そう2001年に発生したBSE問題により、家畜のエサに動物性タンパク質が使えなくなったのだ。
食品残さを飼料にするリサイクルシステム、リキッドフィーディングを利用していた養豚家は、バイオガスへの転換を図らざる得なかった。
さらに追い打ちをかけたのがEU 全体での10%減の耕作制限。
こうして少しずつ食糧ではないエネルギー作物の耕作を受け入れる土壌ができあがっていった。
さてドイツでのバイオガスシステム。
現在、ドイツの総発電量の10%を占めるほどに成長しているという。
それはなぜなのか?
日本のバイオガスシステムとの大きな違いは、シンプルを極めていること。
研究ではなく実用に重きが置かれ、見かけ上は民間が中心になって動いていること。
しかしその裏にはドイツ政府の政策の妙が隠されている。
バイオガスシステムの導入などへの資金補助率は25%と日本よりも少ない。
しかし売電価格の政府の下支えは手厚い。
箱ものの補助より、「20年買取価格を据え置き」など売電価格に税金を投入することがこの国にどんな結果をもたらしたか?
政策の意図を行間から読み取ったものたちだけが、エネルギー作物へとシフトしたのだ。
要はドイツ政府は政策により、経営者の資質を持つ農家たちをあぶり出すことに成功したのだ。
from ミュンスター 横田岳史
※2011年8月25日(木)の日記より